「本当に、此処に残るんだな?」
「ゴーランド、くどい。」
「いや、だって、始めは帰るとか言ってたから・・・。」
「矛盾よね。確かに、私どうかしていたわ。ごめんなさい。」
矛盾、時間はいつまでも経過していっている。私には未だ後悔が付き纏っていた。
ただ、彼の傍にいると、その時だけ安心感に浸る事が出来る
・・・でも、
「それじゃあ、狡い。」
「ん?」
後悔から逃げようとする事は、私にとって本当の″逃げ″だ。
私は私の世界を捨てた。全てそのままにして、中途半端にしてしまって、姉にも傷付けた。
私にとって、それは罪と言っても過言ではない。
それに目を背けようとする事、それはやはり意に背く事だった。
狡いと思う。私は根暗で、いつまでもずるずるずるずる引きずる性格だから、余計に心が痛ましい。
今は安心出来ている。
でも、心の奥底
一人になった時
異常にその感情が明るみに出て来て、暗くなってしまう。
思春期特有の気分の波という物だろうか・・・
だとしたらやっぱり私はまだ子供なのだ。
情けない
そしてやっぱり自分が嫌いだ、という結論に至る。
もう、帰る事は出来ないから余計にそう思う。私はこの世界を選んでしまった。
だから、これからもその苦痛に耐えなければならないのだ。
苦しい。そして、重い
「
?」
もう、一緒にいても、苦痛を感じてしまう。
抱きしめられていても、頭の何処かではそれが在る。
私は、子供なのだ
他人を傷付けている事は十分解っているのに、常に自分優先、自分の幸せを考えてしまう。
「私は、狡い・・・。」
「そんな事無い。あんたが帰ろうとしていたのを止めたのは元より俺だ。
あんたがそんなに傷付いたような顔をしていたら・・・・俺まで、悲しくなる。後悔しちまう。
これじゃあ、あんたを幸せになんか出来ねぇって・・・よく、解ってるのにな。」
「ゴーランドは何も悪くないわ。私が・・・私っ、」
込み上げてくる鳴咽感に涙が溢れた。
泣きたくなんかなかったのに。
私は、やっぱり子供だ
自分が嫌いだ
「
、」
涙を止めようとした手を掴まれて、ぎゅ、と強く抱きしめられた。
「俺がいる、傍にいるから。・・・・今は泣いとけ。俺が、全部受け止めてやるから・・・
あんたが、苦しむ顔は、見たくないが・・・俺だけには、頼って欲しい。
泣きたい時に泣くのが、一番良い。だから、泣いとけ。」
ゴーランドは、優しい。
いつも私に優しくしてくれる。
だけど、そのせいで彼には迷惑を掛けたくないという自分、
楽になりたいという自分がいる事が痛い程よく解った。
本当に、矛盾している。
そして、やっぱり自分は愚かしい程に人間らしく、愚かしい程に狡猾だった。
「ごめんなさい、」
自分が赦されたいから謝る、自分に好意を向けられたいから感謝する、
全てが自分優先。
何て子供なんだろう
何て狡猾なんだろう
背負い込む物は重く、それは他人に背負わせてはならない、自分の問題なのだ。
だが、優しい言葉と、自らの叱咤が責めぎ合って、酷い苦痛を生み出している。
どうすれば、どうやったら、最近の私はいつもそればかりだ。
ゴーランドを苦しめたいなんて死んでも思わない、だけど、どうしたら良いかも解らない。
だからこそ、苦しい。
「お願い、今はこうしていて・・・。」
「ああ、いつまでも抱きしめていてやる。」
いつもの部屋、
いつものソファー、
いつもの膝の上、
今までは安心していたのに、異様に頭の中がぐるぐるする。
「苦しぃ・・・。」
「
。」
覚悟していたとしても、それは重過ぎた。
想像以上の重圧に心が悲鳴を上げているのが聞こえる。
痛い程解る。
一度考え出したら答えが出るまで悩み続ける私故に、だ。
「覚悟を決めたと思っていたのに、私、まだ後悔ばかりしてる・・・。
ゴーランドがいない世界なんかいらないと思っていたのに、
残して来た物の責任とか色んな物がごちゃごちゃになっていて、
私、もぅどうしたら良いのか――――っ!」
驚いて、目を見開いた。
ゴーランドが、無理矢理口付けてきたから。今までに無い位強引な。
勢い込みソファーに倒れた。だが、キスは続く。頭が朦朧とする。
息苦しくて胸を軽く叩いたら、少し拘束が緩んだ。
だが、彼の表情は硬い。
「忘れられたか?」
「え?」
話せば唇が触れそうな位近くで呟かれる。
凄く、低い声にどきりとした。
生憎とそういう事に慣れているという訳でもないから余計に動揺してしまう。
「キスで、一瞬でも良い。あんたの苦痛が和らいだか?」
よく考えてみる。確かに、そうかもしれない。
いや、今のは驚いて何も考えられなかったからだ。
でも、
「・・・・あれ?」
「違うか?」
「いや、確かに何にも考えられなくなってた、かも・・・。」
色々な意味で、だが。
確かに夢中になっていたかもしれない。
胸の奥が熱くなるような。そんな感じではあった。
「じゃあ、・・・・それ以上は?」
「へっ!?」
驚いた。ゴーランドが意地悪気な笑顔を浮かべている。
しかも、至近距離で。
「ご、ゴーランド?」
「俺だって、男なんだぜ?少しは警戒心を持って貰わねーと・・・・苦労すんのは、あんただ。」
「ご、ゴーランド・・・・っ!?」
何だこの展開は!?
今まで私は落ち込んでいて、慰めてくれていた筈。
なのに、
「襲う気?」
「っ、ばっ、んな表現は止めろよ。」
「だって、そんな事言う貴方が悪いんでしょう。私、落ち込んでたのよ。どうしてそうなるの?」
「キスで苦痛が和らいだっつーなら、
それ以上ならもう何も考えられなくなると思っ、ばっ、んな顔すんなよっ!」
呆れた・・・まるで、
「オヤジみたい。」
「っ!・・・あ、あんたってっ、やっぱり・・・、」
「悪かったわね、嫌な女で。」
「いや、あんたは良い女だ。だが、何だか、・・・・・俺にばっかり厳しくないか?」
「っ、そんな訳無いわ・・・・・心開いてるつもりよ。」
「心開く・・・つー事はあんたの本当の顔は俺にしか見れねぇって事か、何か、嬉しいな。」
ああ、何だか馬鹿馬鹿しくなってきた・・・。この男は空気が読めない上に
「素直過ぎる・・・。」
でも、ゴーランドを好きな私。
後悔ばかりしてねちっこい女。
「変なカップル・・・、」
嫌に落ち込んでしまった。
ゴーランドはゴーランドで押し倒したまま動かないし、
私は私でこの体制でドギマギしながらも落ち込んでいる
―――――本当に、変なカップル
「俺じゃ不服ってか?ボリスみたいな奴が良いのか?」
「そんな事言ってないじゃない。というか、何でボリス?私はゴーランドが好きで残ったのよ?」
残った?
残ったという表現で合っているのだろうか?ふと疑問に思う。
だがその疑問もまた塞がれた口によって消え失せてしまった。
「ちょ、いきなり何っ―――っ、」
「嬉しいぜ。」
彼はよく表情を変える。異常な早さで変わる。
今度はふ、という微笑みで、低く囁かれた。
少女漫画等読まなかったが、胸が高鳴るとはこの事なのだろう。
顔が真っ赤になるのが解って異常に焦った。
「顔赤いぞ?熱でもあるんじゃ―――」
「違うの!ああ、もう見ないで!」
「まさか、今ので――――」
「言うな馬鹿!」
「今ので、ドキドキしたか?少しでも、忘れられたか?」
「っ、」
「ふ、そんな顔も俺しか見れねぇって事は・・・やっぱり、あんたは最高だな。」
どうしてそういう事をさらりと言えてしまうのかが、全く解らない。
素直過ぎる男と、狡猾過ぎる女
―――――本当に、変なカップル
既に知っている
君の狡猾さについて
(苦しい時には、俺を呼んでくれ。いつでもあんたを助けてやるよ。)
ハートの国のアリス夢企画「private garden under ground」投稿作品
2007.3.12