「ひどいです!!」
「―――何が」


男は今にも泣き出しそうな顔で責め、対する女は心底迷惑そう且つ面倒だと言う顔で受けた。
別に女は、は、元来涙に濡れた男を邪険にするような女ではない。どちらかと言うと適当に慰めて後腐れないよう振舞うタイプだ。
ただ、ペーターのその手の台詞には飽き飽きするほど、そうそれ程、毎回のこと。ちょっと会えないとすぐこれだとはちいさく嘆息した。


「あのねぇペーター。別にあんたのわけのわかんない嫉妬はもう諦めたけど、恋人に会った開口一番がそれってどうなのよ。ちっとも恋人らしくないわ。愛しい私に会えて嬉しくないの?」


別にペーターなんかに普通の恋人らしさなんか求めちゃいないけど。
自分の口先とは随分器用に出来ているなぁと思うほど、それは甘ったるい声が出せたと思う。最後に(くすん)とあっても違和感が無かったかもしれない。・・・今吐いた台詞を例えばエースあたりに見つかったらと思うとぞっとしない(多分爽やかに何度も繰り返すんじゃなかろうか)ことだが、これで次回は違う台詞を言ってくれるならそれでいい。演技も被害も目をつむろう。
それくらい、はこの台詞に辟易していた。




「そうです、嫉妬です。僕らは恋人同士でしょう!浮気なんて、ああ、。自覚があるだなんて、やっぱりそうなんですね。僕はなんて可愛そうなうさぎさんなんでしょうか」

「・・・・ほんと、都合の良いお耳だこと」

今度はちいさくない嘆息と、舌打ちもオマケしてやった。
ちっとも効果が無いのが悔しいところだ。


「ずるいです!あいつらばっかりと遊んで・・・っ」
「あいつら?」
「あの忌々しい双子です」
「ディーとダム?2人とは今日確かに遊んだけど、鬼ごっこしかしてないわよ?」
「鬼ごっこ!!何て羨ましい!ああもう、あいつら、いつか絶対を寝取る気でいるんですよ!?」
「・・・」

子供相手にこの男は、もう本当になんなんだ。
私だってどちらかといえば子供に括られるような年頃だし、そしてペーターは年は知らないがどう見たって大人だし(中身は違うと今証明されたかもしれないが)、子供のじゃれあいくらい見逃せないのかとか、そもそも私は寝取られるような女だと思われているのか。むかつく。


「僕もと追いかけっことかしたいです!!」
「・・・・・」

この薔薇の広がる城内で、うふふあははとやるのか。
ごめんだ。それこそエースにでも見つかった日には以下略だ。
そうして答えに詰まっていたらペーターはさらにとんちきな事を言い出した。


、そうだ、ねぇ今から遊びましょう。はないちもんめでもかごめかごめでもだるまさんがころんだでも何でも構いません。、貴女があいつらとやっった事のない遊びをしましょう」
「・・・微妙にセンスが古いわね」
「これまでのことは大目にみます。僕は心の広いうさぎさんですから。そのかわりこれから2人でうんと遊びましょう。ついでに、双子とはもう遊ばないでください関わらないでください考えないでください」
「どのへんに広い心があるのよそれ」




つい、とペーターが私の腰を引き寄せた。
瞳は切なげに伏せられて、口はの耳元へ。


「ねぇ、貴女の時間が全て欲しいとは言わないけれど、僕、その僕がいない空白の時間の中に他の誰かがいるなんてことは、耐えられないんです。
 大好きな貴女が、他の誰かの傍にいるなんて」





馬鹿馬鹿しい。
どうしろというのだ。独りでうずくまって何もするなとでも言うのか。ペーターがいない時間とは、つまりその大体は他の誰かによって構成されるということだろう。幼稚な嫉妬。


馬鹿馬鹿しい。
頬が朱に染まっているのが自分でもよくわかる。

馬鹿馬鹿しいと解っていても愛おしいとおもうのは、私に少しでも共感する想いがあるからだろうか。


それこそ、なんて馬鹿馬鹿しい。



この変態うさぎと同じくらい私も頭が沸いているのかしら。
耳元で囁かれただけでこんな、馬鹿馬鹿しい台詞も甘い吐息に混じってわけがわからなくなる。恋だの愛だのに疲れ果てたのはそう昔でもないはずなのに、なんて学習能力のない生き物なんだろう。
朱に染まった原因がこの変態うさぎだと思うと、この顔をペーターに見せるのは癪に思えた。




「―――わかったわ。解ったから、じゃあね、かくれんぼしましょう。今から30秒数えたら追ってきて頂戴ね。きちんと数えてくれなかったり、途中で後ろを向いたりルール違反したら嫌よ。よーい、スタート!」

反論させないよう(なんせ文句はあるだろう。30秒も貴方を見ていられないなんて、とか言われたら堪らない)瞬時に始めたゲーム。
可愛いうさぎさんは慌てて近くの木に顔を押し付けて数を数え始めた。




は、いーち、にーい、と聞こえる甘美な声を背に、駆け出した。
30秒ごときじゃ顔の火照りはおさまらないだろうから。















は、30秒きって確かに近づいてくる足音に再び熱の上がる頬を呪った。
・・・・30秒じゃなくって、300秒と言えば良かった。





(070627/ハートの国のアリス二次創作/企画)