[甘い氷の様にあなたが嫌い。]
太陽を溶かしたような金の瞳は限りなく冷たい眼差しで前を見つめた。
甘い色の髪はきらきらと光を強く反射して、眩しかったし、真っ白なワンピースはご丁寧に細かいレースがあしらわれていて、
その奥にふぁとしたパニエ入りスカートがあった。
黒のブーツで身長を誤魔化して、その微笑みで年齢を誤魔化す。
そもそも、この世界に年齢なんて概念はないが。
さてはて、この幼女は目の前から歩いてくる少女を見つめる。強く、冷たい眼で。
「・・・」
確認したかしないかのほんの短い間を縫い、不意に幼女は跳ねた。
アリスの目の前に一瞬にして移動し、
「ごきげんよう」
少女は一瞬躊躇した。
青いエプロンドレスをぴくりとさせて、同じく青い目は少し脅えて幼女を見つめた。
「・・・・貴方は?・・私はアリス、」
「=」
にいっと唇をあげて、それは子供のような、でも違うぞくりとする
笑み。絶望を知っている者の瞳。だって、目はちっとも笑っていないんですもの。
「・・・余所者・・・」
ぼそっと、呟き。
カチ、
手に持った二丁の拳銃をはアリスへと向ける。
表情は笑みのままで
「・・・私何もして無いわよ」
「そだね。」
無表情のまま、言う。
「それが、いけないの。」
「そんなの了承できないわ。だって私あなたに何もしてないわ。」
意思の強い。意地悪な眼が言う。はそれを聞き唇を噛む。
此だから余所者は嫌い。
なぜか人の琴線に触れるような台詞を吐くから、
これはただの伝承だけれども信じるに値しそう。
『余所者は好かれるんだ』
おとぎ話の中の小さな設定。
私はおとぎ話の一脇役。そのシナリオ上の人物
前の私も・・・・そうだったのかしら。
カチ、セーフティを外す。
そんな琴線に触れる人はいなくなって欲しい。
それは私の欲求に違いない。役としての欲求であったとしても
チャリ、と二丁の拳銃を繋ぐ鎖が音を立てる。
この人は邪魔。
にぃっ、唇が笑みの形を作る。
「サヨナラ、余所者アリス」
「、やめっ」
パン
不意にした声に反応することなくの拳銃から、煙が上る。
しかし、それはアリスに触れることはなかった。
チリ、目の前をカスッたのはとてつもなく速く、はびっくりした。
そして、憎悪の表情を浮かべた。
「チェシャ猫、」
「その呼び方やめてくれる?」
しゅるんとピンクの尻尾が動き、
煙を吹いている銃口に猫はワザとらしく息を吹きかける。
「・・・そいつ、殺すのやめて欲しいな」
「私には殺す理由があるの。駄目?」
小さな体と無邪気な笑み。年齢不詳のその姿。
ふあふぁ綿飴みたいな髪が彼女の容姿を甘く、幼くみせる。
「駄目だ、」
「・・・・私より、その人がいい?」
噛み合っていない会話。だけれども、私はその言葉を紡ぎ続けなければならない。
それが私の役目、かき乱してこの世界をつまらない三つ巴続けちゃあダメ。
「そうよね、その人が良いわよね。」
諦めの様に、
彼女は成長を望めなくなってしまったから、彼女は退化してしまったから。
「だって、大人だものね。」
アリスの姿を見つめ、優しく呟く
「大人じゃないわ、」
アリスが呟き、ボリスはその言葉に驚くの隙をついた。
そう、優しく二丁拳銃をホルスターへ
ほおけている少女、
「・・」
私には対した役も無い。
対したことはない。
元々奪った役、私がいなくなっても代わりは居る。
只、私の営みがなくなるだけで、
「そうかもしれない、ここにいるんだものね。でも、聡いあなたは知ってるでしょ。」
巻くし立てるアリスを憎いと信じこんでひたすらに。
あがらえない。
ルールの中で私は溺れていく
又一段とアリスが私の深部に踏み込んできた気がした。
その前に、守らなければ、私を
「・・・だから嫌いよ・・・」
「アリス、」
猫は半ば叫ぶように、余所者の名を呼んだ。
「は辛い?アリス、行くとこあるならとっとと行きな。こいつは俺が抑えておく。」
ぐ、の華奢な体に猫の腕が絡まる。
猫の瞳はアリスを見つめて、けれど心はに向けて。
「ぁ、ありがと。ボリス」
引きつった笑顔でひらひらとアリスは手を振った。
次に会えるかどうかも分からないくせに、死ぬかもしれないのに
本当はすごく怖いくせに。
見掛けだけの笑顔なんて要らないわ。あなたには必要ないでしょう?ねぇアリス。
「離して、猫」
アリスの影が消えかけた所に呟く。
「その呼び方辞めたら離す。」
ボリスのその言い方は今までより、強く、厳しくて。
辛い・・
「何と呼べばいいか私には分からない。あなたは猫でしょ。」
「確に、猫だよ」
私の髪の毛を掴む
金色の目を見つめてくる。その眼差しが痛い。
「でも、俺には名前がある。」
な?と私に言い諭す。
「ボリス=エレイ」
「知ってるんじゃん」
嬉しそうに目を細めた。
綺麗に笑うんだ。
「でも、あなたは」
「呼んで」
「猫」なの。私の中では
私の髪の毛にキスして、長い指を首へと寄せてくる。
私は子供なのに、チェシャ猫は私を大人として扱うのね。
私はずっとこの人の時計がこの人にこんな行動をさせると思ってた。
だからいつも、チェシャ猫にはそれらしく、
私に与えられた軽率な役らしく軽く手を、振っていた。
「さよなら」って簡単に言って、次には帽子屋の胸の中に溺れた。
三月兎に甘えた。双子と遊んだ。白兎と撃ち合った。
皆それを判っていると思っていた。私は役名でしか人を呼ばない。
この猫はその私に与えられた枷を取り去ろうとしているのだろうか。
あの人は・・そんな事言わなかった。猫って呼んでも、気にも留めなかった。
こんな風に私に想いを伝えなかった。あの人には思いが無かったの?と錯覚しそう。
私の、そんな軽率な姿を猫はどんな想いでいつも見送っていたのだろう。
伝わらない、のではなく、
私は役割に沿っているだけ。表面だけの関係で。
悲しかったのだろうか。
「ボリス」
「どうした?」
でも、あの人はこんな風に私に想いを伝えなかった。
ぺたぺたと腕を私に回して、暖かく、強く。
さらりと、私に甘い声で、「好き」と何度もつぶやいてくれた・・
「離して」
不意に名前を呼んで驚いたの?名前を呼ばないから、
「お願い、私の手を血に染めさせて。」
悲痛すぎる願い、自分と同じだった存在に吐気がする。
私はもうそこまで人の心を動かさない。
「嫌」
「俺はお前が、傷付くのみたくない」
「・・・・っ」
ぎゅっと私の存在ごと抱き締めながら言うのは反則だ。
私はこんなに小さいから、すぐに貴方の腕の中に消えてしまうのに。
「いやよ、嫌・・・否」
「だーめ、」
言いくるめられたくて、拒否をする私はずるいだろうか。
「もっと、苦しんでよ。」
息が出来ない。
「役割を拒んで、」
あぁ、私の時計が止まりそう。変な呼吸をしていることは解ってる。
強く吸った息は弱々しい吐息となり出てくる。
うまく息が出来ないわ。
「苦しくて、死にそう」
「死んだたらまた戻ってくる」
にやりと猫の笑み。
「だって、はコワレルコトができないんだろう?」
そう、私はゲーム傍観者だから、
時計屋によって作り変えられまた元の記憶を抱えたまま、
だって私の心臓は時計に変えてもらったものゲームマスターと取引したもの。
同じシナリオをなぞっていく、だから私を壊せばいい。
『いいのか?』
『ぇえ、あの人が居ないこの世界で私はゲームする以外できないから』
『お前は・・私のゲームをぶち壊す以外にしたいことは無いのか。』
『ぶち壊したいなんて思って無い。ただ、私が耐え切れないだけ』
あの人の居ない世界で、私はゲームを見届けたいと思った。
あの人の時計が何にどう作用するのか、次はどう使われるのか。
だからどくどく波打つ心臓と引き換えに、永遠に壊れない時計を手に入れた。
「そうよ、だからあんたの時計を愛する気持ちも変わらないの」
でもでも、あんたも愛してる。
絶対口には出さないかもしれないけれども、
あんたを愛している。壊さないほどには、
END